福島県石川町移住・定住ポータルサイト

暮らすひとびと

皆様の食卓に並べてもらえるような
「ちょっとおいしい」野菜を作っていきたい

群馬県よりJターン
多品目農家 紀陸洋平さま

石川町へ移住される前は、群馬県で農業を営んでいた紀陸(きろく)さん。
東日本大震災による原発事故をきっかけに石川町への移住を決意されたそうです。
移住を決めたときの想いと、移住先として選んだ石川町で農業をされている今をお聞きしました。

「石川町に住んで、10年になりました。福島県で東日本大震災による原発事故があったときは、群馬県の昭和村という農村地帯に住んでいました。ちょうど、その昭和村から離れて別の地域へ引っ越しを考えていた時に原発事故があり、福島が大変な思いをしていると聞いたんです。」
当時、関東地方では福島県に対して差別的な言葉も少なからず耳に入ってきたそう。
「事故当時、関東に住み、福島で作られた電力を享受してきたことで自分を責めました。あれだけの事故が起きたことを、ずっと忘れずに、他人事にしたくない、自分事にしたいし、子ども達にもそうあって欲しいという思いが日ごとに増していき、福島県への移住を決めました。」
そのような想いから、福島県へ行くことを前提に福島県内の移住先をいくつか候補地として探した結果、石川町に縁があり移住されてきました。

あたたかい地域と人に囲まれて

「当初は、石川町で農家をやるつもりはなかったんです。一般的な就職先を探して、一般的な会社員として勤めながら子育てをしようと考えていましたが、いざ石川町に来てみると後継者がいない農家さんの耕作放棄地がたくさんありました。」
地域の方から『経験があるなら是非』という後押しもあり、自治体の協力も得ながら農地を確保し、福島県でも農家を始めることとなった紀陸さん。
「石川町は、移住者に対してとてもウェルカムな感じでした。私よりも前に移住された方も何人かいらっしゃって、地域ぐるみで移住者を招いたイベントも催されたりして私も参加しました。当時小学校1年生だった子供が、いまはもう高校2年生になります。早いですね。10年はあっという間です。先日も地域の方に会った時、こっちにきてから何年経ったんだいと聞かれて『10年です』って答えたら、『10年てことはねぇだろう、もっといるだろう』って。(笑)仕事柄、毎日地域の方と顔を合わせているので、すごく身近に感じてくれているようです。」

「栽培している作物は色々と紆余曲折しまして...。群馬県(昭和村)と石川町では土の排水性がかなり違ったんですね。群馬にいた頃の土地は軽石が多くてだいぶ排水性が良かったので、その時と同じように葉物を育ててみたら合わなくて失敗してしまいました。葉物はどうしても日持ちがしないので、リスクの高い葉物を少し減らして多品目にし、いまは選抜して20〜30品目くらいを栽培しています。」
紀陸さんが作られた野菜は、石川町内の直売所で販売されています。
「意外とこの地域の方は、まだまだ元気で頑張っている農家さんが多いです。現役で70代後半くらい?80代までやっている方もいるかな?すごい元気ですよね。そういう方たちが『畑がいいところあるから、使ってくれよ』と言ってくれる。田んぼも減らすから使ってくれよ、将来任せるからなって。どんどん私の畑が広くなっちゃいますね(笑)」

作物は「作る時代」から「買う時代」に

「いま作物を栽培している畑は1ヘクタールほどですが、これが一人でやる限界だなとは思っています。ただ、地元に方にもっともっといっぱい買ってもらえるような作物を作って行きたい。私の農園のモットーが『皆様の台所になりたい』なんです。石川町の方って、野菜を買わない文化なんですよね。皆さんご自分で栽培されているので、ゴールデンウィーク明けからの夏野菜は、こんなにあっても食べ切れないよという悲鳴が同世代の親たちから聞こえてくるくらい。でも、恐らくあと4・5年、もしくは10年以内にはその文化が無くなるんじゃないかと思っています。いま、私たちの親世代である70代・80代の方が作物を栽培しているので、いずれ作物は買う時代になるのではないかと。そこがひとつのビジネスチャンスだと考えているんです。いままで野菜を買うということについて気づいていなかった世代の台所というわけではないですけれど、普段食べるような野菜を『あれ、これおいしいね。ちょっと他とは違うね』って言ってもらえるような、皆様の食卓に並べてもらえるような野菜を作っていきたいです。」

インタビューの後、栽培されている作物の収穫を拝見しに、紀陸さんの畑へお邪魔しました。
当日は天候に恵まれた快晴で、太陽をいっぱい浴びながら青々と育つ作物はとても生き生きしており、またその作物について説明してくださる紀陸さんの表情も、とても生き生きワクワクされていました。
説明を聞きながら齧ったちょっと珍しいお野菜たちは、それぞれに個性があり瑞瑞しく、香り良い風味とともに、食卓への彩を感じました。