福島県石川町移住・定住ポータルサイト

暮らすひとびと

木工をとおして
地域の暮らし・人の暮らしに変化を

長野県よりUターン
木工職人 玉木陽祐さん

もともとは石川町ご出身の玉木さん。
19歳で県外へ進学しそのまま就職されていましたが、2022年7月にUターンで石川町へ戻られました。
前職から離れる際の葛藤や、Uターンを決意した想いをお聞かせいただきました。

「前職では、農林水産省に勤めていました。私の実家では、祖父の代から住宅で使用する建具(障子や襖など)を作る家業を営んでいたのですが、勤めてから4年ほどたったある日、父から家業を廃業するような話を聞きまして。」
いつかは福島へ戻ってこようとお考えだった玉木さん。ただ、戻るとしてもご実家で家業を継ぐことは考えていなかったそうです。
「父の話を聞いた後、色々と思い悩むことはありました。いずれは福島へ戻ると思っていても、今がそのタイミングなのか。できることなら今のまま進んだ方が良いだろうし、職場の方もみなさん親切で仕事にも人間関係にも不満はありませんでした。就職から4年で人生の転機を迎えるという状況にも葛藤はあり、長いこと考えて悩んでいました。」

葛藤と人生の転換

「でも、いつかは福島へ戻りたいという強い想いは変わらず、では戻ってからどんな仕事をするかと考えたときに、やっぱり木工にたどり着いたんです。」
様々なものを天秤にかけて悩んだ末に、福島へ戻り家業を継がれることを選択された玉木さん。
「そうと決めてからは、実家へ戻ることへの抵抗感は全くなくなりました。むしろもうなんだか早く戻りたいみたいな(笑)。職場のみなさんも最後には応援してくれて快く送り出してくださいましたが、実は戻ることを家族に伝えたとき、かなり反対されたんです。どうして前職を辞めるのかと。」
公務員から個人事業主になるという転換のなか、ご家族には前職を辞めてから、戻ることを事後報告されたそうです。
「父はあまり口には出していませんでしたが、反対をしつつも戻ったことを喜んでくれていたようです。近所の人へ話していたというのを、後から聞きました。」

福島で"ものづくり"をするということ

「私が大学を出て就職をしたのが2016年でした。そのあたりでは、震災や原発事故を経て少しずつ若い人が福島のあちこちで新しい何かを始めようとしていた時期だと思うんですね。私の高校時代の先輩もその一人で、なんだかその姿が羨ましいなと思って。
自分が置いてけぼりになってしまうような、自分もそこに加わりたいなと感じていました。前職を辞めて福島へ戻るとなったときに、自分にしかできないことは何だろうと考えて、やはり祖父の代から積み重ねてきた歴史があり、いまの時代では珍しくなった 木工機械が一通りあるこの場所(ご実家)で木工をやることで、その新しいなにかの流れに加われるのではないかと思いました。
木工は目的と言うよりも手段。それにより地域の暮らし、人の暮らしに変化を持たせられたら嬉しいなという気持ちでした。」
木工に携わると決めたとき、家業としていた建具だけではなく小物もやってみたいという想いがあったそうです。
「木工というものは昔からいろいろな人が生活のためにやってきたことなんですよね。例えば畑を耕す鍬を農家のおっちゃんが作っていたのも木工ですし、生活用品からDIYまで程度の差はあれど木工は誰でもできることなんです。でも、やはり『木』というのは陶器や金属とは違った良さがあると思うんです。特定の名前がついた歴史はなく、伝統工芸でもない。でもなにかそういう平易なものである木工を、もう少しだけうまくやっていこうというところが私の想いです。」

木工がある風景と人と

「木工製品はひとつひとつ色も木目も違いますし、素材が木なので、水回りで使うものは水を吸って伸びたり乾いて縮んだりというのを繰り返して変化していきます。」
使用していくうちに変化していくその様を『味がある』と捉えていただければ嬉しいと話してくださる玉木さん。
「例えば、お気に入りの小皿ひとつ食卓にあるだけで毎日の風景に変化が出たり、そこに何を盛り付けようかと考えてワクワクしたり。そう思う瞬間や風景を作っていけることが、ものづくりの面白さです。木工は日本だけではなくて、どの国でもありますよね。
世界中に木は生えているから、いろいろな国の文化やシーンがあってそこに馴染む木工はすごいと思います。地域の文化と木工といえば、最近ご縁あって喜多方の漆職人の方と会う機会をいただきまして。漆は日本古来の塗料で水にも汚れにも強く、木工との相性もいいですよね。そういった職人の方達や、違う分野でものづくりをされている方と一緒に、いずれは木工の質感や雰囲気を体験・体験していただけるようなショールームのようなものを作りたいと考えています。」

玉木さんの木工作品のひとつである椅子。
持った感触が手にしっとりと馴染む木肌で、丁寧に編み込まれた紙材の座面はほどよいクッションとなり座り心地は抜群。

インタビューの後、実際に木材を加工する様子を見学させてくださいました。
丁寧に工程をご説明くださる玉木さんの柔らかい雰囲気と、相まって木工に対して情熱がこもる言葉。
加工されていく木材の香りと機械音が一体となって、職人の想いを生み出していました。