(1)我が国の経済財政状況
1.日本経済の現状
日本経済は、バブル崩壊以降「失われた10年」といわれるように長期の低迷期に入っていましたが、平成14年度以降、企業収益の改善や設備投資の増加等企業部門を中心に明るい兆しが見られています。これは、世界経済の回復と中国の堅調な景気拡大に伴う輸出の増加、さらには、企業の改革努力による収益構造の改善、企業及び産業再編の活発化など民需によるものが大きな要因となっています。
こうした景気の回復を背景として、平成15年度の国内総生産(GDP)の実質成長率はプラス3.2%(名目成長率はプラス0.8%)とバブル崩壊以降最も高い伸び率を示しました。今年度の見通しについても、我が国の経済成長率は堅調に推移していくと見られており、政府見通しでは実質成長率を1.8%のプラス成長と見込んでいます。
また、内閣府が実施している月例経済報告(16年11月分)では、「原油価格の動向が内外経済に与える影響や世界経済の動向等には留意する必要がある」として一部に不安定要素があるものの、「景気は、このところ一部に弱い動きはみられるが、回復が続いている」として、日本経済は引き続き回復基調であるとの景気判断がなされています。
≪ GDP成長率の推移と見通し ≫
(単位:%)
区 分 | 11年度 | 12年度 | 13年度 | 14年度 | 15年度 | 16年度 |
実質成長率 | 0.9 | 3.0 | ▲1.2 | 1.1 | 3.2 | 1.8 |
名目成長率 | ▲0.9 | 1.0 | ▲2.4 | ▲0.7 | 0.8 | 0.5 |
※ 11年度から15年度は実績、16年度は政府見通し
雇用情勢は、完全失業率が高水準ながらも低下傾向で推移するなど厳しさが残るものの、改善の方向に向かっています。
完全失業率は、バブル崩壊以降一貫して右肩上がりを続け、平成14年1月には5.5%(14年度通算で5.4%)まで上昇しました。その後、景気の回復に伴い徐々に低下し平成15年度通算で13年ぶりに前年を下回る結果となりました。完全失業率は、今年度も前年度に引き続き低下傾向となっており、本年9月には前月比で0.1%低下し、4.6%となっています。
※ 総務省統計局「労働力調査」より
2.企業間格差の拡大
日本経済は回復基調にあるといわれていますが、景況感は大企業と中小企業との間でその格差が大きくなっています。
日本銀行が実施した本年9月の「全国企業短期経済観測調査(いわゆる「日銀短観」)」によると、業況判断指数(良いと答えた企業から悪いと答えた企業を引いた指数)は、前回との比較で大企業が3ポイント改善しプラス19ポイントとなり、バブル崩壊以降最も高い指数を示しました。一方、中小企業では1ポイントの改善にとどまり、業況判断指数はマイナス9ポイントと依然として厳しい指数となっています。
このように、今回の景気回復は大企業によるところが大きいため景況感の裾野は広がっておらず、中小零細企業は依然として厳しい状況下にあります。
≪ 業況判断指数 ≫
区 分 | 6月調査 | 9月調査 | ||||
最 近 | 先行き | 最 近 | 変化幅 | 先行き | 変化幅 | |
大企業 | +16 | +16 | +19 | +3 | +15 | -4 |
中小企業 | -10 | -10 | -9 | +1 | -9 | 0 |
※「最近」は回答時点を、「先行き」は3ヶ月先までを示す
3.累積する債務残高
我が国の財政状況は、バブル崩壊後の景気対策として国債を増発した結果、平成16年度末の普通国債残高が約483兆円、公債依存度(一般会計歳入総額に占める公債費の割合)が44.6%と見込まれるなど、最悪の状況が続いています。
また、国及び地方の債務残高は16年度末で前年度比3.4%増の719兆円(公社化された郵政事業特別会計及び郵便貯金特別会計の借入金残高49兆円、財政融資資金特別会計国債残高124兆円を除く)と見込まれています。これは、国内総生産比で143.6%となっており、我が国の財政状況は主要先進国中もっとも深刻な状況にあります。
《 国及び地方の債務残高 》
区 分 | 6年度末 | 11年度末 | 14年度末 | 15年度末 | 16年度末 | |
国 | 269 | 449 | 536 (487) | 528 | 548 | |
普通国債残高 | 207 | 332 | 421 | 459 | 483 | |
地 方 | 106 | 174 | 193 | 199 | 204 | |
国・地方重複分 | ▲7 | ▲22 | ▲31 | ▲32 | ▲33 | |
国・地方合計 | 368 | 600 | 695 (649) | 695 | 719 | |
対GDP比 | 74.8% | 118.2% | 140.3% (130.5%) | 139.5% | 143.6% |
(注)1 14年度末の( )内は、郵政事業特別会計及び郵便貯金特別会計の借入金残高
(49兆円程度)を除いた場合の数値
2 上記中各年度とも財政融資資金特別会計国債残高(16年度末124兆円)を除く
※ 債務残高指数は、債務残高/国内総生産より算出
(2)疲弊する地方経済
1.都市と地方の回復格差
東北の地域経済は、16年初から現在に至るまで緩やかな持ち直しの動きが継続しているものの、地域経済全体の浮揚には至っていません。また、設備投資も、一部に積極的な動きがみられるものの、雇用、消費に改善が見られないことなど、依然として厳しさが残っています。
景気回復の格差は、地価にも現れています。我が国の地価は一向に下げ止まらず、バブル崩壊以降は一貫して右肩下がりとなり、いわゆる「資産デフレ」の状況が続いていました。しかし、今回の景気回復基調により、地価の動向にも変化が見られています。業況判断指数の回復が顕著な都市部では、企業活動の活況により地価の下げ止まりの傾向が強まり、三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)の一部では横ばいや上昇している地点も見られます。一方、地方は、依然として地価の下落に歯止めがかからず、下落率は拡大しています。
※ 国土交通省「地価公示価格」より
2.国の歳出改革路線と地方財政
我が国の財政状況は、債務残高の累増により悪化の一途を辿っています。国の平成16年度当初予算によると、国債の償還に充てる利払い分を除く国債費は8兆円余りであるのに対し、新規の発行額が36兆円余りと償還額を実に28兆円上回っており、我が国の国債残高が累増しています。その結果、平成16年度末の普通国債残高は483兆円と見込まれ、主要先進国中最悪の財政状況となっています。
また、景気回復に伴い、今後金利水準が急激に上昇する事態となれば景気への悪影響だけでなく、現在低く抑えられている利払い費が大幅に上昇することとなり、財政の更なる悪化が懸念されています(金利が1%上昇した場合、国債費は1.2兆円増加:16年度予算ベース)。
さらに、少子高齢化が今後急速に進行する中で現行の社会保障制度を維持継続した場合、歳出が今後ますます増大することが見込まれます。現在想定されている人口推計によると、我が国の総人口は2007年頃には減少に転じ、これまで労働力人口の中核であったいわゆる「ベビーブーム世代」が年金受給者となる2010年から2015年頃には社会保障費をはじめとする一般歳出がさらに増大すると予想されています。
このため、政府は、基礎的財政収支(プライマリーバランス:借入れを除く税収等の歳入から過去の借入れに対する元利払いを除いた歳出を差し引いた財政収支)の2010年代初頭までの黒字化を目指し、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(いわゆる「骨太の方針」)」をもとに様々な歳出抑制策を講じています。
「骨太の方針」は、「官から民へ」、「国から地方へ」を基本理念として我が国の財政構造改革に関する施策を推進することを目的としています。その中で地方公共団体に対しては、「地方にできることは地方で」の原則のもと、地方公共団体自身の努力と責任による行財政運営を行う必要性を唱え、この一環としていわゆる「三位一体の改革」を定めています。こうした方針により、地方交付税は年々削減され、平成16年度の地方交付税額は、平成8年度の水準にまで削減されています。
このような地方交付税の削減に加え、依然として停滞した地方経済に伴う地方税の減も重なり、地方財政はさらに厳しさを増しています。
※ 上記は、各年度の「地方財政計画」における地方交付税総額
(3)三位一体の改革がもたらすもの
1.三位一体の改革とは
「三位一体の改革」は、「骨太の方針」に掲げられた国の財政構造改革施策であり、地方が自らの支出を自らの権限、責任、財源で賄う割合を増やすとともに、国と地方を通じた簡素で効率的な行財政システムの構築を目指したものです。その具体的な手段として、「国庫補助負担金改革」、「地方交付税改革」、「税源移譲」を掲げています。
本年6月に閣議決定された「骨太の方針2004」によると、三位一体の改革について以下のとおり定めています。
・ 17年度及び18年度に行う総額3兆円程度の国庫補助負担金の廃止
・ 18年度までに所得税から個人住民税への税源移譲と個人住民税所得割のフラット化
・ 地方交付税については、国の歳出見直しと歩調を合わせ地方の歳出を見直し抑制するとともに、地方公共団体の効率的な財政運営を促進するよう算定の見直しを検討
・ 財政基盤の弱い団体については、実態を踏まえつつ地方交付税の算定等を通じて適切に対応
「骨太の方針」を受けた本格的な三位一体の改革の初年度である平成16年度当初予算では、臨時財政対策債を含む実質的な地方交付税が大幅な減額(前年度比マイナス12%)となったため、地方の予算編成は大変厳しいものとなりました。このため、国は「骨太の方針2004」の中で、平成18年度までの三位一体の改革の全体像を平成16年秋に明らかにし、年内に決定するとしています。
しかし、国庫補助負担金改革に関しては、本年8月に全国町村会を含む地方六団体が、政府の要請に基づき取りまとめて提言した義務教育費国庫負担金をはじめとする3兆2千億円の国庫補助負担金廃止案に対して、中央省庁は補助(負担)率の引き下げ、交付金化などによって目標とする3兆円の削減を図ろうとしています。このように、抜本的な補助負担金改革によりそれに見合った税源を求める地方六団体と、補助(負担)率の引き下げなどにより補助負担金総額を削減しつつも一定の権限を保持しようとする中央省庁との間で激しい議論がなされています。さらに、地方交付税改革と税源移譲に至っては、一定の額を確保したい総務省と、基礎的財政収支の黒字化を目標としている観点から地方交付税の大幅削減を実施したい財務省との溝が一向に埋まる気配はありません。
このように、政府が目標とした三位一体の改革の年内取りまとめは困難を極めています。
2.改革による財源偏差の拡大
三位一体の改革は、地方が自らの支出を自らの権限、責任、そして財源で賄うことを基本とした改革であり、その一環として地方交付税の改革と税源移譲が掲げられています。しかし、この改革により税源が豊かな都市と税源に乏しく財政基盤の弱い地方との格差が今後さらに拡大する恐れがあります。
前述のとおり、都市部は、大企業主導の景気回復の相乗効果から法人税、固定資産税等の増収が見込まれますが、地方は景気回復が遅れておりこうした税収の伸びは期待できないばかりか、納税義務者の減少などにより地方税が減収となっているのが現状です。これに加えて税源移譲となった場合、都市と地方の税源の偏差がさらに拡大することが予想されます。
政府は、「骨太の方針2004」の中で、「財政基盤の弱い団体については、実態を踏まえつつ地方交付税の算定等を通じて適切に対応する」としています。しかし、主要先進国中最も財政状況が悪化している政府として、どこまで地方財政の財源保障機能を果たせるか疑問がもたれます。
このように、三位一体の改革によって個人住民税へ税源移譲がなされたとしても、地方の財政基盤の弱い小規模自治体が、移譲された税源のみで直ちに国庫補助負担金、地方交付税の削減分を補うことはできず、結果として、さらなる財政悪化をもたらすことが予想されます。